イギリス、ロンドンという都市は音楽人生のすべての始まりだった。それは"LONDON IS PlACE FOR ME!"と叫びだしたいほどに。イギリスの音楽はロックではグラムロック、ロンドンのポートベロの外れに小さなオフィスを構えていた頃の初期ヴァージン・レーベルのカンタベリー系のプログレから始まり、80年代のパンク、ニューウェイヴやラフトレイド、4ADなどのオルタナ、アムビエント、ダブなどなど、そしてブリティッシュロックの終焉を意味するelレーベルまでを。
クラブミュージックでは89年の頃のアシッドハウスから、90年中期のドラムンベース、ニンジャチューン、MOWAX、TALKIN' LOUD、そして4、5年前までのウェストロンドンのブロークンビーツまでの、それこそすべてのブリティッシュ・ミュージック・ムーヴメントと言っていいほどの音楽変遷を見てきたし体験してきた。イギリスやロンドンの音楽にはそれほどに日常的親近感を持っていた。しかしここしばらくイギリスの音楽はいつの間にかボクにとって影の薄いものになってしまった。2002年の夏、20年ぶりの40日間の北欧、東欧、ヨーロッパ旅行の途中にロンドンに10日間ほど滞在したが、その変貌ぶりには声を失ってしまった。まるでアメリカなのだ。80年代のサッチャー首相の急進的な経済再編のための構造改革、90年代ブレア首相の市場化一辺倒の政策、ニューイングリッシュ、モダンイングリッシュ=クールブリタニアと呼ばれるイメージ戦略とはうらはらに、おそらくイギリス独自のシニカルな反伝統的文化は経済発展と同時に死滅してしまったのだろうと思う。思えばロックの死滅もそうした政治的変動と符号している。
ポートベロ・ロードに小さなレコードショップを構えレーベル運営もしている"HONEST JON'S"には、ロンドンに行ったときには、必ずといっていいほど立ち寄る。このエリアはおもいでのエリアでもあるし、中古レコードもマニア向けの貴重なものが多く揃っているからだ。いまはアンティックに興味はないが、以前は帰り道、このエリアの通り沿いにあるアンティック・ショップで古いヴィクトリア時代のティーカップなどを品定めしていた。ロンドンのレーベルで今でも買うのは、このオネスト・ジョンズとソウルジャズ・レーベルくらいかも。今日はそのオネスト・ジョンズからリリースされているものを紹介。
「SOLOMON ILORI AND HIS AFRO-DRUM ENSEMBLE/IGBESI AIYA "Song Of Praise To God"」(HJP35)
ナイジェリア出身のソロモン・イロリ(vocal、talkingdrum)の12インチシングル。彼は1964年にブルーノートからレコードデビューしている。このシングルはトランペットのドナルド・バードとドラムスのエルビン・ジ
ョンズのセッションによる未発表曲。多律動なアフログルーヴもまた昨今のクラブジャズ系音楽のひとつの傾向。ブルーノートでのアフログルーヴも、ハードバップと同じようにコンパイルすれば充分現在でも使える記号だ。
「BOOGALOO POW POW/DANCEFLOOR RENDEZ-VOUS IN YOUNG NUYORICA」(HJRLP27)
60年代中期、ニューヨークのダンスホールでは、このアルバムの1曲目に収録されているWILLIE ROSARIOのカリプソ・ブルースなどが流れていたんだな。ブガルーも多くのジャズミュージシャンがとりあげているスタイルだが、この2枚組アルバムにはファンキー、ラテン、サルサ、カリプソなど多種多様な60年代ダンスミュージックが収録されている。ジャズと同じように映画のワンシーンに使われてもいいほどエキゾチックでスリリングな音楽かも。このレーベル以外では、ニューヨークのFANIA RECORDSからリリースされていたWILLIE COLON"EL MALO"(SLP337)などもクラブミュージック、ダンスカルチャーの原点を知る上ではとても重要なアルバムだ。
「LONDON IS THE PLACE FOR ME 2/CALYPSO & KWELA,HIGHLIFE & JAZZ FROM YOUNG BLACK LONDON」(HJRLP16)
このシリーズは現在まで4枚発売されているのだが、そのなかでもこのアルバムは"ジャズ的なる"空気に溢れていて最も気に入っている。アフリカン・ミュージックについては、詳しくないのだが、このアルバムに添付されたノートにカリプソ、クウェラ、ハイライフといったアフリカン・ミュージックについて言及されていて興味深い。それに加え当時のブリクストンのカリブ移民社会のセピア写真やメロディスクのレーベル写真が使われ、レトロモダンな雰囲気を増長させていてオシャレだ。60年代のロンドンのブラック・コミュニティーにもこの頃は夢があったんだな。
「LONDON IS THE PLACE FOR ME 4/AFRICAN DREAMS AND THE PICCADILLY HIGH LIFE」(HJRLP25)
2002年の旅で見たロンドンの地下鉄のターミナルには、以前よりも黒人の姿を多くみかけた、また黒人だけではなくインド、中東、東アジアなどなど人種が混合していて、まるで別の国にきたかのような印象があった。ピカデリー・ハイ・ライフとは勝ち組のこと? ロンドンの街は、おそらく近い内に他民族に乗っ取られるだろうか。これはこのシリーズの最新盤で2006年に発表されたもの。60年代のトリニッドから西アフリカのミュージシャンによるメント、カリプソ、マンボ、アフリカン・ジャズなどが収録された2枚組コンピレーション。
クラブカルチャーの実体、原点は今日紹介したもののなかに隠されている。