nu jazz 1
去年あたりから個人的にはnu jazzが昇華したものとしてHARD BOPへエッジなヴィジョンを移行させようと考えているのだが、ブログを読んでくださっている方から、nu jazzに関してもっと詳しく教えてくださいなどのメールを頂くので、少し丁寧にnu jazzなる音楽をカテゴライズさせておこうと思う。nu jazzがフューチャー・ジャズやハウス/テクノ/ファンク/アブストラクトなどのクラブ・ミュージック・テイストをジャズに融合したいわゆる打ち込みによるもの(ジャザノヴァや4ヒーローズなどの音楽に象徴的な)もそう呼ばれているが、ノルウェイのJazzlandレーベルが96年にリリースしたBUGGE WESSELTOFT「NEWCONCEPTION OF JAZZ」から2003年のフィンランドのRICKY-TICKレーベルがファイヴ・コーナーズ・クインテットの「TRADING EIGHTS/BLUEPRINT」を発表するにいたる過程で、nu jazzの概念が根本的に変容したように思える。

それはDJカルチャーからジャズを、本来のジャズミュージシャンが奪い返した意味が最も大きいのだが、今後nu jazzは主にスカンジナヴィアン・ジャズ、あるいはFinn Jazz周辺で起こっている『ジャズの新たな概念作用』(クラブジャズをイニシエーションしたジャズ)が施されたジャズに対して形容したほうが賢明だと思う。ということはnu jazzの起源は94年にSAHKOレーベルから「SAHKOMIES」(PUU-1)や97年にWARPから10インチ「OUTTA SPACE」(10WAP87)をリリースしていたフィンランドのアーティストJIMI TENOR(つい先日発売されたダブルアルバムJIMI TENOR & KABU KABU「JOYSTONE」(SAHKO/PUU-34LP)はアフリカン・テイストのポリリズムを持つスピリチュアルなジャズが展開されていて、その中の6曲をFCQのTIMO LASSYがバリトン、フルート、バッキング・ヴォーカルで、JUKKA ESKOLAがトランペット、バッキング・ヴォーカルで参加している)と、シカゴのGUIDANCE レーベルから99年に「TAKE IT BACK」(GDR056))、「COLORS OF MIND」(GDR061)、2000年に「CHANGE」(GDR067)、「MAKOOMA BREAKS」(GDR082)などの12インチシングルと2002年に3枚組アルバム「NUSPIRIT HELSINKI:/NUSPIRIT HELSINKI」(GDRL607)をリリースしていたニュースピリット・ヘルシンキということになる。

1.RICKY-TICK RECORDS
nu jazzはそうした視点で解釈したほうが理解しやすいし間違ったレコードを買うこともなくなるだろう。そのnu jazzの核となるFINN JAZZだが、フィンランドのヘルシンキの中心街から南西のプナヴオリ地域にある5叉路のひとつプルシミエヘン通りには、フィンランドで有名なジャズクラブUMOやマニア向けのもレコードショップもありジャズストリートとも言えるフィンジャズの拠点である。その5叉路(上の写真参照)にちなんで名づけられたのがファイヴ・コーナーズ・クインテットである。RICKY-TICKレーベルはオーナーのアンチ・エーリカイネンとプロデューサー、トーマス・カリオのシンクタンクよってFCQのアルバムタイトルでもある"過ぎ去りし日のジャズを追いかけて"というコンセプトのもとに設立された。このレーベルのアルバムデザインや音楽に共通して流れているモダニズムは、イギリスのモッズカルチャーやノーザンソウルに影響されたエーリカイネンの美意識、音楽観のあらわれたものだと言えよう。

THE FIVE CORNERS QUINTET
●THE FIVE CORNERS QUINTET(featuring eero koivistoinen)/TRADING EIGHTS+BLUEPRINT(RT001)
フィンランドのLove Recordsから76年に「The Front Is Breaking」でデヴューし「For Children」や「Altered Thing」など多くの作品を発表しているテナーサックス奏者イーロ・コイヴィストイネンをフィーチャリングしたFCQのデヴュー10インチシングル。2003年作。シニシズムで支配されたこの21世紀世界の美しいソウルフルなダンスフロア・ジャズと形容されたこの作品は、陳腐な4つ打ちハウスが定番だったダンスミュージックの概念やグルーヴさえも一掃し、次世代のためのダンスミュージック、nu jazz/Finn Jazzの始まりを意味する重要な作品。
●THE FIVE CORNERS QUINTET/THE DEVIL KICKS+THREE CORNERS(RT002)
2004年発表のセカンド10インチシングル。フィーチャリングはFinn Jazzの重鎮ヴァイブ奏者SEVERI PYYSALO。この「THE DEVIL KICKS」のテナー、トランペットの2管によるテーマは口ずさめるほど印象に強く残る。ラテン、ドラムンボッサ調のリズム、パーカッション、そのあいだを縫ってヴァイブのクールで透明感あるサウンドが疾走する。FCQの未来を決定づけた名曲。

●THE FIVE CORNERS QUINTET/DIFFERENT CORNERS Remixed by NICOLA CONTE/SUMO-ON-WHEELS/DHARMAONE(RT003)
2004年発表の12インチシングル。「THREE CORNERS」のニコラ・コンテ"Sahib's Samba Version"。04年3月にBariでレコーディングされ、このヴァージョンはFCQのメンバーの名前はひとりもクレジットされていなく事実上ニコラ・コンテ独自のリワークだ。
●THE FIVE CORNERS QUINTET/CORNERSTONES EP-BEFORE WE SAY GOODBY-BLUES CYCLES featuring MARK MURPHY/OKOU(RT006)
ブガルーとラテンファンクの融合といった感のあるアレンジをみせるAサイド「Straight Up」と、ヴォーカルにマーク・マーフィーとOKOUをフィーチャーしたBサイド。2005年作10インチシングル。このジャケットで使われている54年に建設されたFinnish National TheatreのPIETINEによる写真は、アーキテクチュアで構造的なかれらの音楽を象徴している。

●THE FIVE CORNERS QUINTET/CHASIN' THE JAZZ GONE BY(RT007)
2005年発表の2枚組ファーストアルバム。ボクにとってはこうした音楽は90年代中期に北欧やスカンジナヴィアン、フィンランドでのモダン・デザインに興味を持ち始めた頃からのひとつの流れの一端としてとらえている。2002年にTASCHENから刊行されたCharlotte & Peter Fiellの「SCANDINAVIAN DESIGN」という分厚い洋書にはモダンな家具や生活日常品が集約されていて、そのなかのイーッタラやマリメッコなどはもはや日本人なら誰もが知っているように、FCQもこのカタログ本に掲載されてもいいのにと思っているくらいだ。フィンランドのデザインの特徴としてよく言われるスタイリッシュで"伝統とモダニズムの共存"という言葉もFCQの音楽にあてはまる。アンチ・エーリカイネンとトーマス・カリオの巧妙な戦略はクラブシーンでのDJたちやクラバーに支持され成功したが、忘れてならないのは、FCQのメンバーすべてが流動的なジャズミュージシャンによって構成されていて、そもそもセッショナルな体質をもっているということを。
●THE FIVE CORNERS QUINTET/JAMMING(WITH MR.HOAGLAND)+THIS COULD BE THE START OF SOMETHING Featuring Mark Murphy/remixed by Nicola Conte 6 Povo(RT010)
2006年リリースの12インチシングル。ニコラ・コンテによるサイドA「Jamming」はマーク・マーフィーのポエトリー・リーディングがクールでよりクラブジャズを意識したミニマルなドラムンボッサ・リミックス。ポボによるサイドB「This....」はジャジー・ヒップホップ・リミックス。

JUKKA ESKOLA
●JUKKA ESKOLA/BUTTERCUP+1944(RT005)
FCQのフロントマン、ユッカ・エスコラの2004年8月にヘルシンキで録音されたファースト・12インチシングル。ユッカのトランペットの本質はその甘いマスクからも推測できるが、 去年のJaz' room nu thingsでのTATSUMI TETSUYAとのセッションを聴いても、チェット・ベイカーにも似たユニセックス的ロマンチシズムの甘い響きだろうと思っている。T.Makynen作曲のBサイド「1974」もnu jazzの名曲として残るだろう。
●JUKKA ESKOLA/TIMBER UP+KULO(FREE AGENT RECORDS FARVS001)
2005年12月にフィンランドのフリー・エージェント・レコードから発売されたセカンド・12インチシングル。

●JUKKA ESKOLA/JUKKA ESKOLA(FREE AGENT RECORDS FAR001)
2005年5月発売のファーストCDアルバム。プロデュースはユッカとFCQのドラムス、TEPPO MAKYNENが手掛けている。フレディ・ハバードに影響を受けたというユッカのファンキーでスピリチュアルなトランペットの神髄がここでは聴ける。が、ボクはやはりシングルカットされた「1974」や「BUTTERCUP」などのアップテンポなハードバップが好きだ。

TIMO LASSY
●TIMO LASSY /AFRICAN RUMBLE+HIGH AT NOON(RT008)
FCQのメンバーであるテナーサックス奏者ティモ・ラッシーのファースト12インチシングル。もうすぐ彼のファーストアルバム「THE SOUL AND JAZZ OF TIMO LASSY」がリリースされるが、このシングルではアフログルーヴと太いベースラインのうえにティモ・ラッシーのスピリチュアルなサックスがうねる。テナーだけではなくバリトン、フルートも操る彼本来の音楽はスピリチュアル・ジャズを目指していると言えよう。

60's NORDIC JAZZ SCENE
●ON THE SPOT/A PEEK AT THE 1960's NORDIC JAZZ SCENE(RT011)
60年代のノルディック(北欧)・ジャズシーンのピークの頃の音源をアンチ・エーリカイネンがコンパイルした2枚組アルバム。DEXTER GORDONとSLIDE HAMPTON SEXTETのコペンハーゲンのメトロノーム・スタジオで69年に録音されたセッション・アルバム「A Day in Copenhagen」からの「A Day in Vienna」などなど、このアルバムを手にし収録されているスタイリッシュなハードバップの数々を聴いて、nu jazzが昇華しHARD BOPへスライドするのはもう間近だと確信したのを覚えている。おそらくジャケットに使われている写真は、バルト海の最奥部に位置する紺青色のフィンランド湾だろう。そこに浮かぶ白いヨットと抜けるような青い空こそノルディック・ジャズのサウンドスケープで、ここにもウェストコースト・ジャズとの相似点を見る。今日のBlogのトップに使ったモノクロ写真はこの見開きアルバム・ジャケット内側に配されたものだが、これを見ても60年代のジャズクラブがどれだけスノッブな人間が集まる場だったかわかるだろう。

DALINDEO
●DALINDEO/POSEIDON+SOLIFER-LENTO(RT004)
FCQのハードバップをよりイタリアのスケマのフリーダム・ジャズダンスやニコラ・コンテのラテンテイストのジャズ世界に接近させたグルーヴが聴こえる。2004年に発表されたダリンデオのファースト12インチシングル。
●DALINDEO/GO AHEAD,FLOAT+VOODOO(RT009)
2006年に発表されたセカンド12インチシングル。初期ダブルベースを担当していたメンバーのTIMO TUPPURAINENの名前がここにはなく、新たにPEKKA LEHTIが正式メンバーとして名を連ねている。スキャットとパーカッション・グルーヴが疾走するラテンテイストのジャズダンス。

●DALINDEO/OPEN SCENE(RT013)
2007年に発表されたばかりのダリンデオのファースト・アルバム。ギター、フルート、トランペット、ベース、パーカッション、ドラムスというセクステット編成からしても伺い知れるが、ちょっぴりブラジリアン+クラシカル・フレイヴァーなサウンドを奏でている。それに加え日本人ヴォーカリストMichikoが3曲フィーチャーされクープやユキミ・ナガノに似た嘆美な世界をも描いている。

TEDDY ROK/THE STANCE BROTHERS/TEPPO MAKYNEN
●Teddy Rok Introduces THE STANCE BROTHERS/Steve McQueen+Jay's Lament(RT012)
what musicから「Universal Four」をリリースしているTEDDY ROCとは、勿論FCQのリーダーでありドラムスのTEPPO MAKYNENのことである。多才な彼の側面を推し量ることのできるTEDDY ROKことTEPPO MAKYNENの新しいプロダクション=ザ・スタンス・ブラザースの7インチシングルがこの作品。90年代のモ’ワックスでのマニー・マークを彷彿とさせるアブストラクトかつモンド、ブルージーな音楽を披露している。
今回紹介したRICKY-TICKレーベルの音楽には現在のクラブジャズにおける先端でのリアルな運動の何パターンかの鋳型がみてとれる。さてキミはnu jazz? ハードバップ? ラテンテイスト・ジャズ? スピリチュアル・ジャズ? それともアブストラクト・ジャズ? どジャズ?